2012年12月30日日曜日

当診療所の在宅診療について

当院では在宅診療を積極的に行っております。ここ8年間の実績をまとめました。



     死亡診断書枚数   在宅患者さん人数  訪問診療および往診のべ回数
2005年    12           66          492
2006年    17           70          553
2007年    12           69          546
2008年    22           89          736
2009年    22           98           1136
2010年    25            112           1293
2011年    23            121           1320
2012年    29            131           1571



往診を行った患者さんは、2005年の倍以上に増えており、訪問回数も3倍以上に増えています。また、最期まで家に居たいと希望されている方も増えているのも事実です。
往診をしながら、ご家族にも関わらせていただいておりますが、介護をされている家族に対して「なにがなんでも家で」と強制的に勧めているわけではありません。家族の負担や本人の希望など総合的に判断し、多職種の皆さんと一緒に関わらせていただいております。
その結果、「家では無理やと思ったけど、最期まで家にいることができた」「家で最期を迎えることができ、家族も満足しています」とご意見をいただきました。
高齢化のすすむ永源寺地域ですが、地域の皆さんが安心して生活できるよう、今後も支援させていただきたいと思います。

2012年12月29日土曜日

住み慣れた家で過ごす

Tさんが、血液の病気とわかったのは3年前。今まで病気一つしたことがなかった健康な身体でしたが、「急に弱ってきた」と奥さんに連れられて外来に来られました。外来では徐々に貧血がすすみ、病院での検査では「再生不良性性貧血」と診断されました。

高齢のTさんは、入院ではなく当院の外来に通院されることを希望されました。当初は貧血がひどくなれば輸血をしましょうと、お話をしていましたが本人は「どうもない」と繰り返されるだけでした。実際、貧血の値が正常値の半分ぐらいになっても外来に通われ「元気ですわ、酒を飲んでもどうもないかな」と尋ねられるほどでした。

そんなTさんでもやはり病気はすすんでいきました。
今年の夏頃に一緒に外来に来られていた奥さんが「外来に通うのがしんどいそう」と不安そうにこぼされるようになりましたが、それでもTさんは「どうもない」と言っておられます。たしかに家では居間で座って過ごされていることが多いようですが、トイレもなんとか行けています。毎日はしんどいので、風呂は2〜3日に一回で済ませ、奥さんに身体を洗ってもらっているようです。
当然のことながら、今までのように外に出られることもほとんどなく、このままでは足の力が弱って、寝たきりになってしまうのも近いと思われました。

診察が終わった後、奥さんの前で私がTさんに尋ねました。
「ご飯が食べられなくなったらどうしますか?」
「それは困ったな・・」とTさん
「病院に行きますか?」
「あんまり行きたくないなぁ。家に居たいわ。」
「ご飯が食べられなくなっても、家にいたいんだったら往診しますよ」
「じゃあ、先生お願いしますわ」
Tさんの顔がぱっと明るくなって、後ろについておられた奥さんもニコニコされています。皆がわかっていたことですが、自分の終末期を過ごす場所についてTさんがきちんと意思表示をしてくれ、奥さんも我々スタッフも納得した瞬間でした。

そして、その2週間後にご自宅に伺いました。
戦後、満州から帰られて自分で建てられた思い出深い自宅だそうです。こたつに入りながら「60年以上ここで暮らしてきたんで、もうじたばたせず最期までここで暮らしたいなぁ」と、にこやかに話していただきました。

一緒に暮らす奥さんも高齢ですが、お家での様子をみていると二人ともとても幸せそうな様子です。




私は、患者さんと病気や人生について語るとき「生」や「病」だけでなく、「老」や「死」までも尋ねるようにしています。それらは決して伏せておくものではなく、最期まで自分らしく生活するためには必要不可欠なものであると考えているからです。
それらについてあらかじめ話し合っておくことで、その人の人生観(死生観)を理解することができる。そして、その人らしく生活するために、我々がやるべきことの準備が整えられると感じています。


ふと見上げるとねじ式の柱時計が今も現役で動いていました。
この家庭で時を刻み続けてきた時計が、ここの家族の「生・老・病・死」について一番よく理解しているようでした。
きっと、Tさんが最期を迎えるまで、高いところから見届けてくれることと思います。




2012年12月22日土曜日

認知症でも安心して生活できる地域づくり

今月は、研修医の先生が、一ヶ月間当院で地域医療研修を行っています。訪問診療もはじめて行うという研修医の二人は、みること全てが新しいことばかりのようです。

先日、とある一人暮らしの方(Mさん)のお宅へ研修医の先生と一緒に訪問しました。
お家に伺うと、誰もいません。
家じゅう探しても、もぬけの殻。
顔なじみのMさんの飼い犬だけが留守番していました。

いつもは散歩にもよく出かけるのですが、犬をおいて出かけることはほとんどありません。そんな私の話を聞いて研修医が途方に暮れていると、看護師さんが近所の方に尋ねました。
すると近所の方が「ゴミを出しにいったよ」と教えていただきました。
二人はホッと安心して、ゴミ捨て場に向かって探しにいくと、ゴミをのせた一輪車を置いて途中で休んでいるMさんを見つけました。
Mさんは今日の往診のことをすっかり忘れていた様子です。

じつは、Mさんは重度の認知症です。
往診の日をカレンダーに書いていても、当日の朝にヘルパーさんに確認してもらっていてもすぐに忘れてしまわれます。それ以外にも、薬を飲み忘れたり、お金の管理ができなかったり、ヘルパーさんが作ってくれた食事があるのを忘れて腐らせてしまったり、ご近所さんとのお付き合いなどもできなかったり・・・できないことだらけです。

しかし、往診の日を忘れていても探せばいい、薬は朝だけにしてヘルパーさんに飲んだかどうか確認してもらえばいい、お金の管理は権利擁護というしくみがある、食事が腐るのであれば毎回残らないようにヘルパーさんに食事の管理をしてもらえばいい、ご近所さんも顔なじみのMさんなら外を歩いていても「散歩」、けして「徘徊」なんて大騒ぎはされません。

そう、目の前の患者さんに対して医師としてできることなんて、微々たることだと研修医には気付いてほしい。できないことを指摘するよりも、どうすればできるかを考えてほしい。そして、病気が医療で解決できなかった場合でも「なんとかして病気を治す」なんておこがましいことを考えず、看護・介護スタッフと一緒に地域にとけ込んで、地域の人達と一緒に考えて汗を流そう。つまり、医療だけではなく、介護、そしてコミュニティが一体となることでその人を支えることができる。そうすることによって一人暮らしの認知症の方であっても安心して生活をすることができることを知っておいてほしい。

「立派なお医者さんになってください」Mさんの背中は、そう語っているように見えました。



2012年12月1日土曜日

「現代農業」に連載開始

1月号より私の書いた文章が連載されます。

編集部の方にアドバイスいただきながら、少しずつ書いておりますので皆さん読んでみてください。

いただいた絵

患者さんからお預かりした絵をようやく飾ることができました。

Mさんは、今まで心臓や肺の大きな手術を何度も乗り越えてこられました。
しかし、一年前に胃の病気が見つかったときには「もう手術はしない」と決められたそうです。その時点で、本人も家族も残された時間は長くないことはわかっていました。

私のところに連絡があったのは、一年ほど経った今年の夏も終わりを告げる頃でした。私が往診に伺うと、Mさんはいつも居間のソファーに腰掛けられ、凛とした姿で私達を迎えていただきました。

往診中にMさんといろいろと話をしました。昔の仕事のこと、家族のこと、そして晩年は絵を描くことが趣味であったことを伺いました。「家においておいといても仕方がないから、診療所に飾ってください」とMさんから言われ、一枚の絵をお預かりしました。
永源寺の風景を描かれた大きな絵でした。

そして、絵をお預かりして一ヶ月ほど経った頃、お別れの時が訪れました。
描かれた風景のようにとてもすがすがしい表情で、Mさんは旅立たれました。



最初の往診のとき、Mさんは私にこう語りかけられたのを覚えています。
「今までたくさんの病気をしましたが、いつも最高のお医者さんにお世話になりました。先生、今回もよろしくお願いします。」と。
今回は、入院して病気と闘うことではなく、お孫さん、息子さん夫婦、奥さんとともに最期まで家で過ごすことを迷いなく選択されました。

私が関わらせていただいたのは少しの時間でしたが、絵を見ていると、病気に負けたMさんではなく、最期まで生ききったというMさんの想いが伝わり、私達に元気を与えてくださっているような気がします。



当院の在宅医療について

   ここ19年間の実績をまとめました。      死亡診断書枚数   在宅患者さん人数   訪問診療・往診のべ回数 2005年    12           66          492 2006年    17           70          553 2007年...